七月の森。
白樺の幹に木漏れ日が差していた。
よく目をこらすと、
クスサンの幼虫がゆっくり列をつくっている。
北海道では嫌われ者とされがちな、大きな毛虫たちだ。
けれど毒があるわけでも、人を襲うわけでもない。
ただ、大きくて、数が多い、それだけの理由。
最近、昆虫学者の丸山宗利さんが
X でこんなことをつぶやいていた。
「連日の異常高温で、耐性を超えた生き物から局地的絶滅が起きているはず。
土の浅いところにいる幼虫など、乾燥に弱く移動できない昆虫にはひとたまりもない」
実際、森を歩いていても、
かつて当たり前のように見た虫たちの影が
少しずつ薄くなっている気がする。
大量発生で嫌われ、異常気象で追い詰められるなんて、かわいそうだ。
そんなことを考えながら散策を続けていると、
あれほど賑やかにいた幼虫たちはすでに散り散りになり、
気づけば白樺の幹には、
透けた俵のような繭がいくつも並んでいた。
クスサンの繭、通称 “スカシダワラ”。
指先を跳ね返すような硬さがあるのに、
どこか空気をまとったように軽い。
網目状の構造は湿気を逃し、
同時に、小さな捕食者に破られにくい。
小さくて賢い家だ。
大きくて目立つというだけで疎まれる毛虫たち。
けれど本当は、森の温度計のように
気候の変化を真っ先に映してくれる存在でもある。
つながった三つの繭を見上げながら、
この場所に来年もあの影が這うのか、
そう考えていた。
そして思った。
だからこそ、何度でも森へ足を運び、
変わりゆくものと、変わらずにあるものを、
その目で見届けていきたいのだと。

