夏の終わり、
ヤマグワの枝がどこかざわついて見えた。
近づいてみると、
葉という葉に、アメリカシロヒトリの幼虫がびっしりと付いている。
黒い体に、青い斑点、長い毛。
何十匹、何百匹という単位で、同じ葉を食べていた。
アメリカシロヒトリ(Hyphantria cunea)は、もともと日本の虫じゃない。
北米原産で、戦後に入ってきた外来種だ。
今ではすっかり日本の夏の風景に溶け込んでいるけれど、
その溶け込み方は、決して静かじゃない。
集団で葉を食べ尽くす。
枝を丸裸にする。
見た目のインパクトも強くて嫌われる理由は、正直よくわかる。
でも、ヤマグワの前に立って黙々と葉をかじる幼虫たちを見ていると、
そこには善も悪もない。生きているだけだ。
アメリカシロヒトリの幼虫は、
最初のうちは集団で行動する。
数で圧倒することで短い時間の中で、一気に成長するのである。
毛虫は嫌われる。
それは今も昔も変わらない。
アメリカシロヒトリの幼虫は、
歓迎されない存在かもしれない。
それでも、
今この場所で生きているという事実だけは、
どうしようもなく確かだ。
ヤマグワの葉の上で、
毛だらけの体をくねらせながら進むその姿を、
今年は、ちゃんと見ておこうと思った。
好きか嫌いかではなく、
「起きていること」として。

