道北・中川町の森を、ある芸術家の方と歩いていた日のことだ。
少し標高のある林縁に、青紫の花が揺れていた。
深山に咲くミヤマオダマキがうつむくように咲くその姿は、
光をため込んだ小さなランプのようにも見える。
花に顔を寄せる黄色い影があった。
エゾコマルハナバチのオスだ。
マルハナバチ類の多くは、メスとオスで色が違う。
エゾコマルハナバチの場合、メスは黒を基調とした縞模様だが、
オスは胸から腹部にかけて明るい黄色をまとう。
北海道の夏が似合う、柔らかい色だと思う。
この日は、オダマキの距の深い花弁の奥に潜り込み、
まるで花に抱かれるように蜜を吸っていた。
ミヤマオダマキは、細い距の先に蜜を蓄える構造をしているため、
長い舌をもつマルハナバチ類がよく訪れる。
植物と昆虫の形態が、偶然ではない繋がり方をしている瞬間に出会うと、
森の時間の積み重なりをそっと覗き込んだような気持ちになる。
オスのハナバチは巣づくりも子育ても担わず、
夏の森を自由に巡りながら蜜を吸い、配偶相手を探す。
どこか旅人のような生態だ。
北海道の夏は短いから、その中でも
花と蜂の色彩が重なりあう季節というのは、数週間だけ。
ミヤマオダマキの青紫と、エゾコマルハナバチの黄色。
強いコントラストなのに不思議と調和していて、
この土地の夏の空気そのものを写しているように見えた。
この写真は僕にとって、
この年の森の記憶を留めるための、小さな灯りのようでもあった。

